鑑定評価額と実勢価格
不動産鑑定評価額と実勢価格の関係
一般的によく実勢価格と言われますが、その概念はやや曖昧です。不動産は、通常の商品などと違って、合理的な取引市場(流通機構)の形成が不完全です。そのため、売買当事者の特殊な事情、例えば売り急ぎや買い進み、特別の利害関係や縁故関係などがその取引価格に影響を与えることが多く、そこで成立した価格は必ずしもその不動産の適正な価格を反映するものとはいい得ません。したがって、世間一般的に言われる実勢価格には、特殊な事情の下に成立した価格(高過ぎる価格、或いは低過ぎる価格)、または単に売り主の希望価格、不動産業者の広告に掲載された売却希望物件などの価格を指す場合が含まれることが少なくなく、実勢価格の概念は、幅があって、かつ、曖昧であることが多いのです。
これに対し,不動産鑑定士(または 不動産鑑定士補)によって求められる不動産鑑定評価額は、売手にも買手にも偏らない客観的な交換価値を表す『正常価格』であり,多くの取引事例によって実証され、また、不動産の経済的価値である効用、収益性等によっても検証された不動産の客観的な価格であるということができます。
②土地価格の目安になる公的土地価格
公的土地評価には、地価公示法に基づく地価公示、国土利用計画法に基づく都道府県地価調査のほか、課税目的のための評価としての相続税評価及び固定資産税評価があります。政府は、土地基本法等を踏まえて、これらの公的土地評価に対する国民の信頼を確保するとともに、適正な地価の形成と課税の適正化を図るために関係省庁でそれらの均衡化・適正化を推進しています*。
不動産鑑定士等による不動産鑑定評価は、これらの公的土地評価の均衡化・適正化のために多くの貢献をしています。
*土地基本法第16 条(公的土地評価の適正化等)
国は、適正な地価の形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるよう努めるものとする。
なお、更地の場合において、不動産鑑定評価額と地価公示標準地価格・地価調査基準地価格とは、均衡が保たれており、地価公示標準地価格、地価調査基準地価格、相続税評価及び固定資産税評価とは1:1:0.8:0.7の関係が目安となります。
但し、これらはあくまで目安であり、例えば地価公示標準地価格や地価調査基準地価格は、選定された一定の標準地及び基準地についての価格であり、土地がその位置・形状はもとより行政的な規制等の違いにより一つとして同じ土地はなく個別性が強いことから、適切な比較には専門的な知識や経験が必要です。また、相続税評価及び固定資産税評価については、画一的な基準である通達等によって評価されるため、実際の不動産市場の動向をきめ細かく反映できていない場合があります。特に、個々の不動産の個別性を反映できていません。トップページの「不動産鑑定士の仕事内容」の例示の場合等、適正な評価が必要な時は不動産鑑定士をご利用ください。
③地価公示とは
地価公示とは、地価公示法に基づき、毎年1月1日時点における都市計画区域とその外一定区域を含む「公示区域」の全国約3万地点の標準地の正常な価格を調査公表する制度です。公示価格は、国土交通省土地鑑定委員会によって決定されますが、その作業については、各標準地について2人以上の不動産鑑定士によって行われた鑑定評価を基礎としています。
地価公示制度は、次のような役割を担っており、不動産鑑定評価制度及び公的土地評価制度の根幹となっています。
- 一般の土地の取引価格に対する指標の提供
- 不動産鑑定士等の鑑定評価の規準
- 公共用地の取得価格の算定の規準
- 収用委員会の補償金の額の算定上の考慮事項
- 相続税評価、固定資産税評価の規準
このように不動産鑑定士が地価公示を実施している区域にある不動産(土地)の鑑定評価を行う場合には、公示価格との均衡に十分留意することが義務づけられており、公示価格は不動産鑑定評価額決定のための重要な指標となっています。
④都道府県地価調査とは
都道府県地価調査は、国土利用計画法による土地取引規制における価格審査の規準及び同法に基づく規制区域内の土地の取引価格の算定の規準とすることを目的として、毎年7月1 日時点における全国約3万地点の基準地の正常な価格を調査公表する制度です。この都道府県地価調査は、地価公示を実施している区域を含む全国において実施されており、実質的に地価公示制度を補完する役割を担っています。
都道府県地価調査における各基準地の正常な価格は、不動産鑑定士による鑑定評価によって調査され公表されています。
⑤相続税評価とは
相続税等の課税価格の算定に係る土地の価額は、「当該財産の取得の時における時価による(相続税法第22条)」とされており、時価の評価の原則と各種財産の具体的な評価方法については財産評価基本通達に定められています。
また、納税者が申告する際に土地の時価を的確に把握することは一般的に困難であるため、納税者の申告の便宜と課税の公平を図る観点から、同通達に基づいて路線価等(いわゆる相続税路線価*)が定められ公表されています。
この路線価は、売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額(不動産鑑定士等が国税局長の委嘱により鑑定評価した価額をいう。)、精通者意見価格等をもとに国税局長が評定しています。路線価は土地基本法第16条の趣旨を踏まえ、総合土地政策推進要綱等に沿って、その評価割合を公示価格水準の80%程度とされ、その均衡化・適正化が図られています。
*国税庁長官が定めた財産評価基本通達において、宅地の評価については、市街地的形態を形成する地域にある宅地については路線価方式、それ以外の宅地については倍率方式によって行うこととされています。いずれの方式を適用するかは国税局長が定める財産評価基準書に示されていますが、そのなかで示されている路線価が相続税路線価と呼ばれているものです。
⑥固定資産税評価とは
固定資産とは、「土地、家屋及び償却資産を総称する(地方税法341条1号)」とされておりますが、ここで取り上げるのは土地の価格についてであり、その「価格」とは、「適正な時価をいう(地方税法341条5号)」とされています。
そして固定資産税の課税標準額の決定は、原則として市町村長が行うものとなっており、市町村長は、総務大臣が定めた固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(固定資産評価基準)によって、固定資産の価格を決定しなければならないとされています。
また、固定資産税評価における宅地の評価は、固定資産評価基準に基づき市街地的形態を形成する地域にあっては路線価方式(市街地宅地評価法)、その他の地域にあっては標準宅地の評価額に比準する方式(その他の宅地評価法)によって評価額が算出されています。
固定資産税評価は、3年に一度評価替えが行われることとなっていますが、平成3年1月に閣議決定された土地政策推進要綱で、「速やかに、地価公示価格の一定割合を目標に、その均衡化・適正化を推進する」こととされ、平成6年度評価替えから、固定資産税宅地における7割評価の方針が打ち出されました。
具体的には、平成4年1月の自治事務次官依命通達の一部改正において、地価公示価格、都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士等による鑑定評価価格の一定割合を目途とし、「当分の間この割合を7割程度とする」ことが明記されました。その後、固定資産評価基準の一部改正(平成8.9.3自治省告示)によって、「宅地の評価において、標準宅地の適正な時価を求める場合には、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の1月1日の地価公示価格及不動産鑑定士等による鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の7割を目途として評定するものとする」という措置が講じられました。